2025年 世界理学療法会議(東京)での収穫
2025年5月、私たちディディエとリナ・ハートマンは、東京で開催された世界理学療法会議に参加するという貴重な機会を得ました。この会議は、世界中から理学療法の第一線で活躍する専門家が集う、非常に刺激的でインスピレーションに満ちた場でした。そこでは、革新・思いやり・そして新しい理解にあふれた、実に多様で深い意見交換が行われていました。
この会議を通して私たちが強く感じたメッセージは、「心の健康なくして、身体の健康はありえない」ということ。そして、理学療法士は、痛み・心の働き・そして癒しが交わるその重要な接点における、かけがえのないパートナーとして、世界的にますます認識されつつあるということです。
会議の中で何度も繰り返されたのは、「動きは薬になる、ただし“人間”を理解してこそ」という考えでした。つまり、クライアントに「選ぶ自由」「安心できる空間」「思いやり」を提供すること。トラウマやストレス、感情を無視せず、ただ乗り越えさせるのではなく、寄り添うことが必要なのです。
私たちは「ウィンドウ・オブ・トレランス(耐性の窓)」という概念にも触れました。これは、クライアントが「感じること」と「考えること」の両方が可能なゾーンを指します。トラウマはこの窓を狭めてしまうことが多く、私たちセラピストの役割は、この窓の範囲内で、単に手技だけでなく、言葉・存在・気づきによって支援していくことなのです。
特に印象に残ったポイントをいくつかご紹介します
説明することの重要性
私たちは、「何をするか」だけでなく「なぜそれが必要なのか」も伝える責任があります。なぜ動くことがストレスに効くのか、なぜ姿勢が気分に影響するのか、なぜ人は心の壁によって身体の動きが制限されてしまうのか――それらを理解することが、変化の第一歩になります。
動きの質と身体感覚の意識
姿勢やリハビリだけでなく、「集中力」「感情の調整」「行動変容」にも影響する要素として、動きの質や身体への気づきがとても重要であることが再確認されました。
運動療法の力
運動療法は、うつや不安などの気分障害に対し、心理療法や薬物療法と同等の効果があるとする研究が増えてきています。これは非常に力強く、測定可能な事実です。そしてまさに、私たち理学療法士の担うべき役割です。
国によっては政策としても推進
たとえばオーストラリアでは、週150分未満の身体活動しかしていない人に対し、理学療法を処方することが政策として進められており、理学療法士は身体と心の両面のケアの中心的存在として位置づけられています。
私たちが日々実践している、姿勢・マインドフルネス・動き・自己認識を組み合わせた統合的なアプローチが、こうした世界の流れとしっかり合致していることに、とても励まされました。
私たちには今、求められていることがあります。単なるバイオメカニクスの専門家にとどまらず、「人間の全体性に気づいたリーダー」になることです。この会議では、世界各国の理学療法士たちと、「バイオ・サイコ・ソーシャル・メディスン(生物・心理・社会的医学)」という、身体・心・社会的背景を統合して患者を理解する比較的新しいけれども非常に重要な考え方について、活発な意見交換が行われました。
実はこのアプローチは、私たちの毎日の実践の中核をなしているものであり、ディディエが2017年にドイツ語で出版した著書のテーマでもあります。そして、現在の研究でもその有効性が続々と明らかになっており、私たちのこのモデルへの確信はますます強まっています。
東京を後にした私たちは、大きなエネルギーと確信を胸に帰路につきました。テーマは「グローバル」でしたが、実際の応用はとても「個人的」で「地域的」なものです。そして私たちは今、日本にあるCrossPhysioの現場で、今回得た気づきをすでに取り入れ始めています。
なぜなら、最終的に癒しとは、ただ姿勢を整えたり筋肉にアプローチしたりすることではなく、人が「自分」という存在をどう捉え、どんな価値観や信念、目標を持ち、どう生きていきたいのかそのすべてを理解し、結びつけていくことだからです。
自分の人生を、自分らしい動きで、自分のペースで進んでいく。その中にエネルギーが生まれ、挑戦があり、ときに感動すらある。そんな生き方こそが、本当の満足や幸福の始まりなのだと、私たちは改めて感じました。